私が中学生のころに「世界に一つだけの花」という歌が流行りました。
一つとして同じものはないから NO.1にならなくてもいい もともと特別なOnly one
といった歌詞が当時の世相にマッチしたようですが、「NO.1を目指す中でこそOnly one になれるんだ!」なんて反発する人もいました。
私も、偏屈だったので、「確かに人はOnly oneだけど、人より優れていないと意味ないよなぁ。俺だって歌は歌えるけど、SMAPみたいにCDを出せるわけでもないし」と思ったものです。
しかし、大人になってちょっと考えが変わりました。
ある分野でNO.1になるのは難しい。しかし、その分野に参加しているというだけで、実はかなり希少な技能だったりする
絵を描けるのは特殊技能
私の父は、年賀状に息子3兄弟の似顔絵イラストを描いていました(親戚には人気でしたが、あくまで素人レベル)。当時、我が家には数百枚の年賀状が届いていましたが、イラスト入りは父の他に1、2枚でした。つまり、父は「似顔絵イラストを描く」という100人に1人しか持たない特殊技能の持ち主だったと言えます。偏差値で言うと73です。東大入試の偏差値は70前後ぐらいですから、偏差値73ってすごくないですか?
あるいは、ストーリーマンガを1話書ききった経験がある人はいますか?もしそうなら、あなたは、数千人〜数万人に1人の逸材です。学生時代、校内にマンガ1話描いた人はいなかった(現にいない)でしょう?漫画の世界では新人はまず1話を描き切るのが大きなハードルとされているそうですから、書ききった人はそれだけで希少な存在です。
文章を書けるのも実はレア
私が最近仕事で感じている「文章を書ける」のも、思ったよりレアな技能かもしれないということ。もちろん、全く字が書けない人は少ないのですが、読みやすい文章を、必要な時に必要なだけ書くには、訓練が必要です。
プログラムの開発工程には、「コードレビュー」という、書いたプログラムに問題がないか他のプログラマーがチェックする工程があるのですが、そのコードレビューで私が指摘するのは、
- 「後で読んだ人が理解しやすいよう、コメント(プログラム内に書く補足説明)を書いてください」
- 「どうしてこのコードが必要なんですか?企画書のURLをコメントに書いてください」
- 「『ステータスコードが300以上の場合』ではなく『失敗した場合』と書いた方が直接的です」
- 「このコメントの内容は、コードを読めば明らかなので、不要です」
のような、プログラムの動作には直接関係しない、コメントに関するものが大きな割合を占めます(体感で3割ぐらい)。コンピュータ用のコードを書くのは上手なのに、人間向けのコメントを書くのは下手な人が結構いるんです。
また、社内にはWikiという誰でも編集できるWEBサイトがあります。プログラムの仕様などを情報共有するためのもので、どんどん書いていって欲しい(情報が増えれば私が仕事するのに助かる)のですが、実際には一部の人しか記事を書きません。実は、結構な割合の人が「適切な文章を書けない」「書くのに苦手意識がある(のでできれば書きたくない)」のかもしれません。ツイッターだってほとんどの人はROM専らしいですから。
スポーツだって希少価値
http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/houdou/31/02/__icsFiles/afieldfile/2019/02/28/1413747_001.pdf(スポーツ庁の調査)によると、成人の週 1 日以上のスポーツ実施率は 55.1%です。つまり、何らかのスポーツをやれば、それだけで「スポーツ偏差率」50越えを達成しているのです。
さらに、スポーツの競技人口を考えてみましょう。こちらのサイトによると、人気スポーツのサッカー・野球ですら競技人口はこの程度です。
- サッカー(フットサルを含む)・・・677万人(8.7%)
- 野球(キャッチボールを含む)・・・814万人(10.4%)
しかも、この数字はおそらく「月1遊ぶ」程度の基準です(ランキング1位が「ウォーキング・軽い体操 4682万人」とかですし)。
だから「毎週土曜日に会社の草野球同好会でプレーして、夜はテレビでナイターを見るお父さん」は、日本全体から見れば、ごく一握りしかいない、ハイレベルな野球愛好家と言えます。だから、名探偵コナンを観れなくても文句を言うのは止めましょう。
そして、カヌーとかアーチェリーのようなマイナー競技なら「やったことがある」だけで、小数点以下しかいない貴重な人材ということになります。
だからどうした?
マンガ・文章・スポートに限らず、貴方がちょっとでも特技や趣味としているものがあれば、貴方は偏差値70以上の逸材です。それでSMAP並みに稼ぐことは難しいかもしれませんが、卑屈になることはありません。NO.1ではないとはいえ、かなりのレア物なのですから。
また、そこそこ程度の能力でも役に立つことはあるはずです。例えばマンガなら、ホームページの会社紹介の隅に4コマ漫画を自分で描いて載せるとか。本職に発注すればギャラ以外に、発注の手間もかかりますが、自分で描くなら融通が利きます。チョロっと書いたものが、意外に高評価を受けたり、商談の際にアイスブレイクのネタになるかもしれません。
また、社会が変わって能力が役立つこともあります。我が父も、健在だったら今頃LINEアイコンを作って定年後の小遣い稼ぎをしていたかもしれません。今年のラグビー流行で、ラグビー部員は一杯おごってもらえたかもしれません。
逆に、商品やWEBサービスを作るときに、自分を基準に考えるのは危険です。任天堂のゲーム機には「Mii」という似顔絵を作る機能がありますが、「似顔絵を描くのは簡単。俺でも出来るんだから」と考えて、ゼロからフリーハンドで似顔絵を描ける機能を用意しても、大半の人は使いこなせない(あるいは使おうともしない)でしょう。だから、Miiは予め用意された顔のパーツの組み合わせで似顔絵を作るようになっています。
社内Wikiを設置するときも、「さあ皆さん書いてください!(だって、書くのなんて簡単でしょう?)」では失敗するのは決まっていて、
- 書くハードルを下げる(予めページを用意しておく等)
- 書かざるを得なくする(「毎週水曜16時~17時はWikiを書く時間」等)
- 書くモチベーションを高める(「Wikiをよく書いている人ランキング」を作る等)
といった施策を考えることも必要です。
あとがき
Only oneでもNumber oneでもないけど、役には立つよ、きっと。