ありがちな「なぜ”デスクトップLinux"は普及しなかったのか?」へのありがちな反論
ITmedia エンタープライズに、なぜ“デスクトップLinux”は普及しなかったのか?という記事が載っていました。デスクトップLinuxの失敗については今まで何度も色々な人が書いており、どうということは無い記事なのですが、
AppleのUIを最高と考える私にとって、“Macより劣るWindowsの劣化コピーでしかない”デスクトップLinux(当時はRHEL4でした)は、苦痛でしかなかったのを覚えています。コンシューマーデバイスにおける一貫したUIの大切さを実感したということですね。
・・・という、Apple 信者が何度も何度も何度も蒸し返す誤った理論が述べられておりムカついたので、大人気なく反論しようと思います。
キラーアプリ
Apple 信者の理論の誤りとは、ユーザーはUIでOSを選んだりしないことを無視していることです。Apple のUIが優れていようが、デスクトップLinuxのUIが混乱していようが、関係ないのです。
企業がWindiowsかMacを選ぶとき、どのように選ぶでしょうか?MacのUIの素晴らしさと値段やOfficeの互換性を天秤に掛けて・・・そんな企業は少ないでしょう。「MacのOfficeはWindows版Officeと100%互換性じゃないだって!?話にならん!、やはりWindowsだ!」と言ってWindowsを選択するのです。
なぜなら、取引先の100社中99社が Windows版Office を使っており、.doc や .xls (.docx や .xlsxではない)をやりとりしなければならないのです。社内はともかく、社外向けには罫線1ピクセルずれるのも許されません。だからWindows版Officeでなければダメなのです1。
また、MacBook Pro はプログラマーの間では人気です。では、プログラマーはAppleのUIが優れているからMacBook Proを選ぶのでしょうか?少なくとも私がMacBook Proを使うのは、Unix風OSが動く事実上唯一のノートPCだからです。もっぱらIDEとターミナルを使うので、Macの素敵なUIにお世話になる機会はあまりありません。むしろMacのUIは嫌いなくらいです。本当はLinux入りのノートPCが欲しいのですが、入手性・価格・周辺機器の互換性その他モロモロの兼ね合いで仕方なくMacBook Proを使っています。
もう一つ。歴史を振り返りましょう。Mac OS Xがリリースされる前のMac OS 9までのMacはどんな企業で使われていたでしょうか?出版社やデザイン事務所です。印刷・出版・デザインなどの分野では、Windowsでは使えないMac特有のソフトがあったからです。では、洗練されたデザインのMac OS Xがリリースされたら、すぐにそちらに移ったのでしょうか?そうではありません。実際には使いたいソフトがMac OS Xに移植されるまでは、古臭い爆弾OSであるMac OS 9 を使い続けました。
- Windows における Microsoft Office
- MacBook Pro におけるmacOSのUnix 風OSとしての機能
- Mac OS 9 における印刷・出版・デザイン関係のソフト
こういった「OS/ハードを買わせるほどの魅力を持ったソフト」をキラーアプリと言います。
なぜ"デスクトップLinux"は普及しなかったのか?
デスクトップLinuxが失敗した原因にはUIの醜さ不統一もあります。しかし、選ばれない決定的要因ではありません。デスクトップLinuxにはキラーアプリが無かったのです。あるのはWindowsアプリのコピーばかりでした。
デスクトップLinuxは「無料」としばしば言われましたが、いくら「無料」でも用途が無ければしようがありません。そして学習コスト・サポート費用を計算に入れると実は安くないと分かり、デスクトップLinuxの熱狂は冷めていきました。
現在のデスクトップLinuxを見てみましょう。ITmedia エンタープライズの記事では、当時のデスクトップLinuxを「Macより劣るWindowsの劣化コピーでしかない」なんて書いていますが、最新のデスクトップLinuxは一定の品質に達しています。Chrome等のWebブラウザもWindowsやMacと同じものが動きます。WEBサーフィンしたりブログを書いたりするには十分な性能です。しかも無料。
しかし、キラーアプリはありません。「これのためにLinuxを使いたい」と思うような独特のアプリがありません。今も昔も無いのです。これが、デスクトップLinuxが今だに普及しない本当の理由です。
- 本当にそんなレベルで互換性が必要なのかは疑問ですが、それはここでの問題ではありません。↩